7月といえば棚ぼた……もとい、七夕ですなぁ。
照瑠は、何か願い事とかあるの?
私は別に、特にこれといってないわね。
犬崎君は?
俺もないな。
そもそも願いなどというものは、誰かの力を借りて叶えるものじゃない。
本当に叶えたい望みがあるならば、己の力でつかみ取るべきだ。
それはそれは、至極真っ当な御意見どーもです……。
まあ、二人は欲なんてなさそうだもんね。
ある意味羨ましいですわ。
そういうあなたは、随分とたくさん欲を持っていそうよね。
お金が欲しいとか、イケメンの彼氏が欲しいとか……数えれば、いくらでも 出てくるんじゃない?
うぐぐ……。
ま、まあ、確かにそういうのもありますけど……。
実は、一番叶えたい願いは、この前のテストの結果をなかったことにして欲しいってやつだったりして。
まったく……何かと思ったら、そんなお願い?
いくら七夕様だって、過去に起きたことを変えるのは無理だと思うわよ……。
ふふふ……。
実は、そうとも言えませんぞ、照瑠殿。
七夕様には無理でも、他の物を使えば可能かもしれないんだよ?
他の物って……。
どうせまた、いかがわしいおまじないの類なんでしょ?
まあ、そう言われれば、そうなのかもしれないけどね。
照瑠は、『金の受話器のロゴが入った公衆電話』っていう都市伝説、知ってるかな?
そんなの初めて聞いたわよ?
で……どうすれば、その公衆電話とやらで願いが叶うわけ?
よくぞ聞いてくれました!
この公衆電話、噂では、どの県にも一つだけあるってことになっているんだよね。
それをなんとかして見つけ出して……後は、今年になってから作成された、綺麗な十円玉を使って電話をかけるんだ。
電話をかけるって……どこへよ?
う~ん……。
噂によってマチマチなんだけど、とりあえず自分の家とか携帯かな。
とにかく、自分に電話をかけたっていう事実が大事で……後は、電話の向こうから『発信音の後に、願い事をどうぞ』っていう留守電風のメッセージが流れるらしいよ。
な、なにそれ……。
なんか、随分とコミカルな噂なのね。
留守電にお願いするっていうのも、なんというか間の抜けた話だわ。
まあね。
でも、人の話は最後まで聞かないと駄目ですぞ。
実は、この噂にも、ちょっとしたタブーがあってね。
確かに電話は願いを叶えてくれるんだけど……その願いを聞き届けてくれる時間は、僅か十秒!
それを過ぎて願いを言ってしまうと、願いが叶わないばっかりか、自分にとって大切な人が一人だけ死んじゃうっていうオマケつき!!
ちょっ……大切な人が死ぬって……。
それじゃあ、願いが叶うどころか、下手したら自分の恋人とか両親とかが
死んじゃうかもしれないってこと!?
そういうことだね。
それに、自分にとって大切な人ってのは、何も他人ばっかりとは限らないよ。
自己愛が強い人なんかは……案外、自分の方が酷い目に遭って死んじゃうこともあるかもね。
どっちにしろ、似たようなものじゃない!
失敗したら誰かが死ぬって……いくらなんでも、そんなの気軽にできないわよ!!
だが、嶋本の言っていることも、ある意味では至極理に適っているぞ。
超常的な存在の力を借りて、過去の因果律や己の運命までも捻じ曲げる……。
それに伴う代償というやつは、生半可な物では済まないということだろう。
その通りだよ!
それに、似たような事件だったら、私達も既に経験済みだし。
似たような事件って……あっ!!
そういえば、あの事件も『願いを叶える都市伝説』が基になっていたわよね。
やっぱり、ああいう都市伝説の類には、怖い見返りがあるのが普通ってことなのかしら……。
う~む……。
別に、そういうわけでもないんですが……そっち系の話は、私よりも詳しい人がいるんでね。
今回はゲストってことで、ちょっと特別にお呼びしておきましたぞ。
ゲストだと?
お前の他にも、都市伝説の類に精通している人間がいるというのか?
こんにちは!
久しぶり……っていうのも変な感じだけど、元気だった?
美月じゃない!
まさか、あなたが亜衣の言ってたゲストなの!?
うん、まあね。
例の『ジョーカー様事件』は私も当事者だし、何より私も、占いとかジンクスの類には詳しいから。
ちなみに、私が誰だかわからない人は、『猟闇師 ~Jの祟り~』を読んでみることをお勧めするわよ。
急にカメラ目線になって、誰に話してるのよ……。
で、美月の知ってるジンクスっていうのは何なの?
まさか……やっぱり亜衣の言ってたみたいに、犠牲が必要なものだとか……。
私が知ってるのは、そんなに危険なものじゃないから大丈夫よ。
例えば……佐川急便のトラックにある飛脚のマーク。
あのふんどしを触ると、願いが叶うとかね。
なんか、それはそれで頭が痛くなってきたんだけど……。
飛脚のふんどしに触るって……いくら絵だってわかっていても、やっぱり抵抗あるわね、それ……。
まあ、確かにちょっとね。
ちなみに、止まっている車じゃなくて、走っている最中の車じゃないと効果がないって説もあるわよ。
走っている最中の車って、普通に危ないじゃない!
なにかこう、もっと安全なジンクスはないの?
そうねぇ……。
特定のお願いを叶えるための方法だったら、まだいくつか知ってるわ。
例えば、両想いになりたい異性の名前を書いたバンドエイドを身体のどこかに貼っておいて、一週間剥がれなかったら両想いになれるとか。
後は、頭にリンゴを乗せて勉強して、そのリンゴが落っこちないと試験にも落っこちないなんて話もあるかな。
へえ、なんか色々あるのね。
でも……亜衣の話と違って、どこか胡散臭く感じるのはなんでかしら?
恐らく、純粋に捧げる物の大きさが影響しているのだろうな。
嶋本の話にあった方法は、代償として己の命さえも差し出さねばならん危険性が伴うものだ。
それに比べ、入間の話にあった方法は、極めてノーリスクな方法だからな。
支払う代価が大きければ大きいほど、願いが叶う可能性も高くなる。
人間とは、そういう風に考える生き物なのだろう。
なるほどね。
でも……やっぱり、自分の命まで賭けちゃうのは間違ってると思うわよ。
そうまでして叶えたい願いって、今の私達にあるのかしら?
いや、ないだろう。
だが、自然災害に対して無力だった古代の人間にしてみれば、天候が崩れないようにというのは切実な願いだったと思うぞ。
生贄や人柱の慣習などは、その最たるものといえるだろうしな。
それこそ、人の命を犠牲にしてでも、日照りや洪水による被害を抑えたかったということだ。
ま、そういうことだね。
人魚姫が足をもらう代わりに声を失ったみたいに、何事も代償なしには上手くいかないってことなんだよ。
その通りだ。
ところで、嶋本。
そろそろ期末試験の結果が返ってきている頃だとは思うが、数学は大丈夫だったのか?
あ、あはは……。
まあ、その辺は聞かないお約束ってことで!
それじゃ!!
あっ、逃げた!
あの様子だと、どうやら結果は散々だったみたいね……。
ジンクスに頼るのもいいけど、最後はやっぱり自分の力で試験に勝たないと駄目よね。
と、いうわけで、皆もあまりジンクスにはまり過ぎちゃ駄目よ。
さもないと……私みたいな目に遭っても、後は知らないからね!
最後の最後まで、いったい誰に向かって話しているんだ、あいつは……?
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