さて……ちょっと遅くなっちゃったけど、久しぶりの都市伝説講座なんだよ!
昨年から約束していたわけだし、今年の一発目は犬崎君に語ってもらうことにしましょう、そうしましょう!
主人公の、面目躍如ってところ?
まあ、別に私は構わないけど……。
そんなに言うなら、語ってやらんこともないがな。
それに、確かに約束をしたのは俺の方だ。
(まったく、相変わらず可愛くないんだから……)
で、犬崎君の言ってる禁則地っていうのは、いったい何なの?
名前からして、『入っちゃいけない場所』っていうのは解るけど……。
まあ、簡単に言ってしまえば、そういうことだ。
しかし、禁則地と呼ばれるからには、それなりの理由がある。
それを知らずに接することは、ある意味では自殺行為に等しいのだがな。
な、なんだか新年早々に重苦しい話ですなぁ……。
そりゃ、入っちゃいけない場所に入るってことは、悪い事なんだろうけどさ。
まさか、それで命まで奪われるなんてことは……。
いや……場合によっては、そういうことも在り得るぞ。
なにしろ禁則地は、古来より人が立ち入ってはならない場所とされているからな。
神聖故に人が足を踏み入れられないしょうな場所もあるが、中には魑魅魍魎の巣になっているようなところも多い。
魑魅魍魎ってことは、妖怪ってことよね?
でも、まさか、この現代において、妖怪の巣が残されているなんて……。
きっと、山奥の深~い場所にある洞窟とか、そういった場所のことなんでしょう?
それはどうかな?
確かに、九条の言っているような場所も、禁則地にされているものはあるが……有名な場所の中には、住宅街の中心に存在しながら、未だに禁則地とされている場所もある。
おお、それは凄いですな?
で、その場所ってどこにあるの?
都市伝説マニアの私としては、是非とも所在を知りたいですなぁ。
ちょっと、亜衣!
まさか、あなた……そこに行って、中に入ろうなんて考えてるんじゃないでしょうね?
さっき、犬崎君が、『禁則地は妖怪の巣だ』って言ってたの、忘れたの?
Σギクッ!?
い、いや……べ、別に、そんなこと考えてなんかいませんぞ?
調査に向かって、中から戦利品を取ってこようとか、そんなことは……。
アンシンシテイイヨ、ホントダヨ?
いや、微妙に声が裏返ってる時点でバレバレだから……。
犬崎君も、お願いだから、あんまり亜衣を煽るような話はしないでね。
それは嶋本次第……と、言いたいところだが、確かに日本全国で見ても、危険な禁則地はあるからな。
ただ、そういう意味でも、どんな場所が危険なのか知っておいた方がいい。
いざ、足を踏み入れてみたら、そこが禁則地でしたでは洒落にならん。
確かに、それはそうかもね。
さっき、犬崎君も、住宅地の中に禁則地があるなんて言ってたし。
そういうことだ。
例えば、千葉県市川市にある八幡の藪知らず。
現在は18平方メートル程度の藪しかないのだが、ここは一度迷い込んだら、二度と出られない禁断の地だとされている。
なるほど、そこで前回の集団失踪事件と繋がるわけですな?
でも、一度迷ったら出られないって言うなら、誰がその話を伝えたのかな?
この話を伝えた者、か……。
伝承によれば、この藪を禁則地としたのは、あの水戸黄門として有名な水戸光圀ということらしい。
なんでも、誤って迷い込んだ挙句、魑魅魍魎に囲まれて……最後は仙人のような老人に諭され、お目こぼしをもらって藪の外に出られたようだがな。
へぇ……。
あの水戸黄門に、そんな伝説があったのね。
でも、今じゃその藪も、大した広さはないんでしょ?
それだったら、もう迷う人なんて出ないんじゃないかしら?
そう、あればいいんだが……実際、入って調べた者がいない以上、なんとも言えんな。
藪知らずそのものは、インターネットの衛星写真でも確認できるくらい開けた場所にある。
知らない者からすれば、鎮守の杜が残っている程度にしか見えんのだろうが……地元の人間からは、今でも畏敬の念を抱かれているようだ。
まあ、確かに一理あるかもね。
黄門様が出会ったのが、妖怪なのか仙人なのかは解らないけど……その土地に昔から住んでいた土地神様ってことだったら、うかつに立ち入るのは無礼に思われても仕方がないわ。
むぅ……それは残念。
禁則地なんていうからには、きっとすっごい秘密があると思っていたのに……。
それこそ、金銀財宝、お宝ザクザク~みたいな展開を期待していたんですけどなぁ。
あ、やっぱりそんなこと考えてたのね!
犬崎君の話だと、禁則地は聖域ってこともあるのよ?
そこの宝物を取って行こうなんて……ほとんど、盗掘と同じじゃないの!
九条の言う通りだ。
他にも沖縄の新城島にある人魚神社、九州本土から約90km離れた場所にある沖ノ島の宗像大社沖津宮などは、現代に残る禁則地と言っても過言でないかもしれん場所だ。
人魚神社は今でも写真撮影はおろか、鳥居の向こうに何があるかを探るのも禁止。
宗像大社沖津宮も、普段は宮司が1人いるだけで、しかも10日の交代勤務だそうだ。
そこまで言われると、逆に好奇心が湧いて来るんですが……。
なんとかして、こっそり忍び込むとかできないものですかなぁ……。
だから、駄目だって言ってるじゃない!
それに、もしも禁則地に足を踏み入れて、本当に帰ってこれなくなったらどうする気?
藪知らずに入った黄門様の時と違って、禁則地と知ってるのに入ったら、お目こぼしなんかもらえないわよ!?
九条の言う通りだな。
実際、新城島の人魚神社の秘密は、島民でも決して語ってはいけないことになっている。
彼らの結束は、この件に関しては恐ろしい程に固い。
それこそ、部外者が禁を破れば、殺人さえ厭わないほどに、な……。
さ、殺人って……。
さすがに、それはちょっと行き過ぎな気もするけど……でも、完全に否定しきれないところが怖いわね。
口が堅い人達の集まりだったら、アリバイ工作されたら絶対に解らないでしょうし……。
それに、他の禁則地にも言えることだが……行方不明になると聞いて、お前達は何を想像する?
大方、人が忽然と消えて、捜索しても一向に見つからないなんて話だけじゃないのか?
えっ!?
だ、だって、行方不明っていたら、そういう話なんじゃないのかしら?
それとも、もっと他に、何かとんでもないことでもあるっていうの?
ああ、そうだ。
俺が思うに、『人が消える』というのは、単に姿形が消えてしまうことではない。
記憶や記録など、その人間に関する事柄まで含め、綺麗サッパリ消えてしまう。
より解り易く言うならば、『最初からいなかったことにされる』ということではないかと思っているが……お前達は、どう思う?
ひょぇぇぇっ!
そ、それ、怖すぎなんてもんじゃないですぞ!
記憶や記録からも消えちゃうんだったら、そもそも絶対に探してもらえないじゃん!
だが、これだけ多くの禁則地が存在しながら、そこで行方不明になった人間が後を絶たない等という話が残っていない理由にはなるぞ。
噂の真偽を確かめようにも、消えた張本人という最も解り易い証拠そのものが、『最初からなかったこと』にされてしまうのだからな。
もし、犬崎君の言っていることが本当だとしたら、やっぱり面白半分で禁則地に足を踏み入れるのはよくないのかもね。
亜衣……あなたも、あんまり妙なこと考えて、馬鹿なことしたら承知しないわよ!
よ、よ~く解りましたです!
これからは、近道だからって、勝手にお墓を通り抜けて学校に行ったりしません!
お供え物が美味しそうだからって、つまみ食いしたりもしません!
それから、御近所さんのお庭を通って、芝生を踏み荒らしたりもしません……しませんからぁ~!!
なっ……御近所さんのお庭に、それからお墓って……!
ちょっと、亜衣!
あなた、何てところを通って学校に行ってたのよ!
それに、お供え物を失敬してたなんて……ちゃんと、お寺やお庭の持ち主のところに行って、しっかり謝らなきゃ駄目じゃない!
やれやれ……。
この調子では、嶋本に立ち入られないようにするために、『この先、禁則地』と書いた紙でも貼っておかねば駄目そうだな。
もっとも、それではこの町が、どこもかしこも禁則地だらけになってしまうことになるが……。
それも駄目!
そもそも、そんなことしたって、何も根本的解決になってないじゃない!
さあ、亜衣……そろそろ年貢の納め時よ。
私も一緒に行ってあげるから、まずはお寺に謝りに行きましょう。
トホホ……。
新年早々、初詣ならぬ初土下座なんてね……。
迂闊なことは、やっぱり言うもんじゃないですなぁ……。
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