さて……。
今日はスペシャルゲストと一緒に、『怖い歌』についての都市伝説を語るって話だったけど……。
亜衣、さてはまた何か、よからぬ事を企んでるんじゃないでしょうね?
なんと!
のっけから失礼なことを!!
いくら私でも、そんな酷いことをするはずがないではありませぬか!!
まあ、しかし嶋本の場合は、疑われても仕方ないだろうな。
何しろ、お前には今までの前科が山のようにある。
ここで何の疑問もなしに信頼しろという方が、いささか無理があると思うが?
うぐぐ……犬崎君まで。
でも、今回は本当にそんな心配は無用だからね!
二人とも、ゲストの顔を見たら、ちゃ~んと納得するはずだよ!
はいはい。
で、そのゲストってのは誰なの?
まさかとは思うけど、ま~た美月に変なこと言って唆したんじゃないでしょうね?
人聞きの悪いことを言わないでよね!
それに、今日のゲストは残念だけど美月じゃないよ。
以前の事件で私達が会ったことある人ってことだけは、変わりないけどさ。
――――ガラガラガラ……。
こんにちは。
お久しぶりね、照瑠ちゃん。
えぇっ!?
も、もしかして、今日のゲストって沙耶香さん?
おい、誰だこの女は?
今までに会ったとか言っておきながら、俺はまったく面識がないぞ。
ああ、そう言えば、犬崎君は面識がないんだっけ?
この人は猟闇師シリーズ第三弾に登場したんだけど、その時は犬崎君、四国に帰ってたもんね。
……というか、初対面の相手に、いきなりなんて口の利き方なのよ。
相手は年上なんだし、少しは態度を弁えるってことをしなさいよね!
うふふ……。
亜衣ちゃんから聞いてたけど、噂通りの人みたいね。
それに、照瑠ちゃんも、そんなに怒らないであげて。
折角の美人が台無しよ。
えっ!?
あ……ま、まあ、沙耶香さんがそう言うなら……。
そ、それに、美人って……!?
沙耶香さんに比べたら、私なんて……!!
こういう台詞をサラッと言える辺りが、名家のお嬢様って感じですなぁ……。
まあ、それはさておき、そろそろ本題に入りましょうぞ、皆様。
そうしてくれると助かるな。
正直、もう俺は待ちくたびれたぞ。
相変わらず、余計な一言が多いんだから……。
で、亜衣の言ってる本題って何なの?
わざわざ沙耶香さんに来てもらうような理由、あったわけ?
ふっふっふ、よくぞ聞いてくれましたぞ、照瑠殿。
何を隠そう、今日の本題は日本の童謡についてなんだよ。
沙耶香さんは、大学では民俗学を専攻していたらしいからね。
この手の話には、ピッタリのゲストでしょ?
専攻していたって言っても、さすがに学者さんと同じだけの知識はないわよ。
私に答えられることなら答えるけど、そんなに期待しないでね。
またまた、御謙遜を……。
だいたい沙耶香さんも、照瑠と会ったのは『かごめ歌』と一緒に出て来る幽霊の事件が切っ掛けじゃん!
そういうわけで、今回の一発目は『かごめ歌』についての都市伝説を検証してみない?
なるほど、『かごめ歌』か。
数ある童謡の中でも、色々な解釈が成されているものではあるな。
なんだ。
犬崎君も、ちょっとは知ってるの?
いや、正直なところ、そこまでは詳しくないぞ。
俺に聞くより、嶋本か、後はそこの女に聞いた方が早いんじゃないか?
だから、口を慎みなさいって言ってるでしょ!
で……実際、その辺はどうなのよ、亜衣?
『かごめ歌』については、私も沙耶香さんの家で起きた事件で色々な考察聞かされたけど……いったい、どれが正しいわけ?
まあまあ、焦らない、焦らない。
それでは、順を追って説明しましょう!
まずは最初の解釈だけど……『かごめ歌』が、姑が嫁を流産させる歌だっていうのは割と有名かな?
いきなり、とんでもない話から来たわね。
確か、沙耶香さんの関わった事件の時にも言ってたような……。
おお、よくぞ覚えていてくれました!
あの時も説明したけど、かごめっていうのは漢字で『篭女』って書くんだよね。
これが、妊娠した女の人を指しているって話なんだ。
お腹の大きい妊婦さんのことを、籠を抱えた女の人に喩えているわけね。
『かごのなかのとり』という歌詞についても、妊婦さんのお腹の中にいる赤ちゃんだと考えれば説明はつくかしら?
さっすが、沙耶香さん!
それで正解だよ!
やっぱり、伊達に民俗学専攻してたわけじゃないですなぁ。
あら、誉めても何も出ないわよ。
それに、この手の話の細かいところは、亜衣ちゃんの方が詳しいでしょ?
えへへ……。
まあ、確かにそうなんですけどね。
そういうわけで、『かごめ』は妊婦さんで、『かごのなかのとり』は赤ん坊のこと。
そして、夜明けの晩……つまり、夜とも朝ともつかないような微妙な時間に、その妊婦さんを突き転ばした人がいるんだよ。
『つるとかめが滑った』っていうのは、妊婦さんと子どもが滑って大怪我したって話。
そして、妊婦さんを突き転ばしたのが、他でもない姑さん。
歌の歌詞にもある、『後ろの正面』の人ってことになるんだね。
なるほど、なかなか興味深い解釈だ。
だが、俺が聞いたことのある話とは、微妙に異なっているな。
微妙に違うって……犬崎君も、『かごめ歌』について何か聞いたことあるの?
ああ、少しはな。
俺が聞いたことのある話は、『かごめ歌』は斬首刑の過程を歌った歌であるという話だ。
かごめの漢字表記が『篭女』なのは嶋本の話と同じだが……これは、篭に入れられて刑場に運ばれる罪人を現したとする説だな。
そういえば、昔は罪を犯して処刑される人を篭に乗せて刑場まで運んだって言われているわね。
篭男じゃなくて篭女っていうことは……やっぱり、その罪人も女の人ってことになるのかしら?
なかなか鋭いな。
何の力も持たない一般人にしておくには勿体ない。
もう!
いい加減、いちいち憎まれ口叩くの止めなさいよね!
それで……その罪人っていうのは、最後はどうなっちゃうわけ?
当然、刑場に引きずり出された上で処刑されただろうな。
『つるとかめが滑った』の下りは、京都の辺りで使われる方言、『つるつるつっぱいた』が訛った物だと言われている。
お前達にも解るように訳してやると、『ずるずる引っ張った』という意味になる。
その解釈なら、私も知ってるよ!
最後の歌詞にある『後ろの正面』は、斬り落とされた女の人の首が転がって、体は前を向いているのに首だけ後ろを向いている状態になっちゃったってことだよね?
その首が、『私を殺したのは誰?』って尋ねているってことだったかな?
そういうことだ。
もっとも、これもあくまで仮説の一つにしか過ぎんがな。
解釈の仕方次第では、他にも色々な意味として考えることができるだろう。
確かに、その通りね。
私もその手の噂話は、大学のゼミで一緒になった友達から聞かされたことがあるわ。
沙耶香さんも!?
『かごめ歌』の噂って、意外と色々なところで語られてるのね。
そうかもしれないわね。
まあ、あなた達の知ってる話に比べたら、私の話はそこまで刺激的なものじゃないかもしれないけど……。
別に、刺激的である必要などないと思うが……。
それで、あんたが聞いた話というのは、いったいどんなやつなんだ?
犬崎君……。
そろそろ、本気で怒るわよ……。
気を遣ってくれなくても構わないわよ、照瑠ちゃん。
それよりも、私の聞いたことのある話なんだけど……実は、『かごめ歌』は徳川埋蔵金の隠し場所を示した歌だっていう説があるのよね。
ま、埋蔵金!?
もしかして、それ見つけたら億万長者!?
さあ、それはどうかしらね?
でも、何かとっても大切な物を隠した場所を伝えてるっていう可能性は否定しきれないわ。
具体的には、どういう解釈なんだ?
そうねぇ……。
まず、『かごめ』の意味だけど、ここでは女の人じゃなくて『篭目』と書くの。
要するに、篭を編んだ時にできる、六芒星の形のことね。
六芒星って、確か『Y』って形のやつだよね。
悪魔とか呼び出す時に、『エロエロエッサイム~』とかやるやつ!
それを言うなら、エロイムエッサイムだ。
ついでに言うと、六芒星は必ずしも悪魔召喚の儀式に使うわけではないぞ。
本来は、ユダヤ教における魔除けのシンボルだからな。
日本でも実際に『篭目紋』といって、伊勢神宮周辺の石燈籠などに、魔除けの意味を込めて刻まれていたりもする。
中東と日本で、同じ形に同じ意味……。
なんだか、ちょっとミステリアスね。
そうね。
でも、残念だけど、その話は今回の埋蔵金の話とは関係ないわ。
大切なのは、その印が徳川家に所縁のある日光東照宮の、よりにもよって祠のある場所に刻まれているってことなのよね。
なんと!
では、そこが徳川家の埋蔵金が眠る真の場所ということですな!?
実際、そう考える人も多いみたいよ。
しかも、そこの六芒星は、なんと上の部分の三角形が一つだけ欠けているんですって。
まるで、地下を指し示す矢印のように……。
レントゲンか何かで調査した結果、埋蔵金かどうかは判らないけど、何かが埋まっているということも確認されているわ。
おお、なんと素晴らしい!
それじゃ、さっそく掘り返しにレッツゴー!!
犬崎君も、当然来るよね?
ここ掘れワンワンって!!
俺は花咲か爺の話に出て来るポチか……。
それ以前に、東照宮は国宝であり、しかも世界遺産だぞ。
そんな物を傷つければどうなるか、お前は想像できないのか?
まあ、警察を始めとした国家権力の御厄介になりたいんだったら、俺は敢えて止めんがな。
ガ~ン!!
そ、そんなぁ……。
折角、徳川埋蔵金の在り処を突き止めて、億万長者ライフを満喫しようと思ったのに~!!
残念だけど、世の中そうそう甘くはないわ。
でも……そこに何かが埋まっているのが判っているのに、どうして国は発掘しないのかしら?
先にも言ったが、そこが国宝であり世界遺産にもなっているからだろう。
だが、それ以上に、国にとっては拙い物が発掘される可能性もある。
それを考えると、下手に掘り返して藪蛇になるようなものは、そのままにしておいた方が良いという判断からだろう。
掘り返して藪蛇って……たかだか副葬品か何かでしょ?
それとも、国の偉い人達が、本当に祟りか何かを恐れているとか……。
いいえ、そうではないでしょうね。
たぶん、祟りなんかよりも、もっと恐ろしい物。
それこそ、歴史が塗り替えられるような、表舞台には出て来て欲しくない物が発掘される可能性を考えてのことだと思うわ。
表舞台に出て来て欲しくない物?
そ、そんなに危険な物が埋まってるっていうの?
あくまで可能性の話よ。
ただ、そこの犬崎君が言っていたように、本当にそんな物が発掘されたら大騒ぎになるわ。
学校で使われている歴史の教科書の内容が、ちょっと変わる程度ならいいんだけど……昔から偉人とされていた人達の立場……徳川家の末裔や、下手をすると天皇陛下の立場まで悪くするような物が発掘される可能性だって否定はできないのよ。
て、天皇陛下の立場を悪くするって……。
でも、今は戦時中じゃないんだし、そんなの全然平気なんじゃ……。
いや、そうも言ってはいられないぞ。
日本人にとっては象徴でしかない皇族の人間も、他国から見れば立派な君主に見える場合もあるからな。
対外的なことまで考えた場合、やはり下手に自国の歴史の暗部を掘り返すべきではないのかもしれん。
個々人が勝手に憶測する分には構わんが……下手に一般社会に広まれば、それらの事実を利用して、悪辣なことを考える輩が現れんとも限らん。
それでなくても、社会が混乱するのは間違いないわね。
ちょっと難しい話になっちゃったけど……私が知ってるのは、こんなところかしら?
いえ、ありがとうございました。
やっぱり沙耶香さんに話してもらうと、亜衣の与太話とは違って真実味がありますね。
むぅ、失礼な!
私だって、いつも真剣、真面目モード200%なんですぞ!!」
あ~、はいはい。
それにしても……こんなにたくさんの解釈があることにも驚きだけど、どれもなんとなく危険で怖い雰囲気の解釈よね。
もし、この中に真実があったとして、なんでそんな歌が語り継がれて来たのかしら?
恐らく、その歌の中に込められた負の感情が、一種の強烈な怨念として残っているからだろうな。
なんの変哲もない流行歌であれば、時と共に人々の間から忘れ去られて消えて行くのが常だ。
そうならなかったのは、そこに何らかの強い意思が込められているからだろう。
それが、果たして他者への恨み辛みなのか、それとも誰にも教えてはいけない、教えたくない、歴史をも揺るがす隠しごとなのか……。
現時点では、不明だがな。
歌に込められた意味、か……。
今までは、あまり考えないで歌ってたけど……身近な歌にも、色々な意味が込められているものなのね。
その意味が、本当に真実かどうかは、まだ誰にも判らないけどね。
私もまだまだ、その辺は勉強が足りないかしら?
相変わらず謙虚ですね、沙耶香さんは。
まったく……どこぞの誰かに、沙耶香さんの爪の垢でも飲ませてあげたいわ、本当に。
何故、そこで俺を見る?
それ以前に、爪の垢など飲んだら腹を壊すと思うが……新手の嫌がらせか?
サラッとボケかましたフリしながら、毒を吐かないでよね!
ホント、口の悪さだけだったら、犬崎君はギネス級なんじゃないかしら!?
ふっ……。
それは、誉め言葉として受け取っていいのか?
そんなわけないでしょ!
まったく……どこをどう解釈したら、そういう風に取れるのよ!
こんなんじゃ、亜衣の言ってたかごめ歌の解釈の方が、まだ道理に適ってるって思っちゃうわ!
なるほど、やっぱり亜衣ちゃんの言っていた通りね。
二人とも、本当に仲が良くて羨ましいわ。
な、なに言ってるんですか!?
こいつとは、ただの腐れ縁みたいなものですから!
変な誤解しないでください!!
あら、そうなの?
私は亜衣ちゃんから、二人は世界最強の『らぶらぶ霊能者カップル』って聞いたわよ?
なっ!?
ちょっと、亜衣!
ぎくっ!
ま、まあ、その辺は言葉のあやというもので……。
それじゃ、今日はこの辺でお開きにしましょう、そうしましょう!!
こら、待ちなさい!
あなた、沙耶香さんに私達のこと、なんて説明したのよ!!
ひょえぇぇぇっ!
お、お助けを~!!
……まったく、相変わらず騒がしい連中だ。
こんなことでは、ゆっくり茶を飲むこともできんな。
まあ、賑やかなのはいいことじゃないかしら?
それに、この調子なら、しばらくは私も色々と楽しめそうだわ。
(しばらく?
今回限りのゲストではなかったということか?)
うわ~ん!
犬崎君も沙耶香さんも、見てないで助けてよ~!!
なに言ってるの!
あなたが変な噂撒き散らしてくれた落とし前、きっちりつけるまで許さないんだからね!!
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あらかじめ、ご了承ください。