果てさて、前回より随分と日が開いてしまったけど、今回はいよいよテケテケに関連性のありそうな、もう一つの都市伝説を紹介しちゃうよ!
ちょっと、亜衣!
その前に……いつまで人の家のコタツを占拠して、カタツムリの真似してるのかしら?
うぐっ!
だ、だって、外は寒いし……。
それに、な~んかこうしていると妙な一体感がありまして……。
いっそのこと、もう冬はずっとこのままでいいかな、なんて思ったりしてね。
なに、馬鹿なこと言ってるのよ!
いい加減、人の家のコタツを返しなさい!!
うぎゃぁぁぁっ!
寒いよ、照瑠!!
コタツの布団めくらないでぇぇぇっ!!
相変わらずだな、嶋本は……。
そろそろ本題に入りたいのだが……構わないか?
うぅ、仕方ないですなぁ……。
それじゃ、ちょっと寒いけど語らせていただきましょうか。
テケテケの仲間とも正体とも言われる謎の妖怪、その名も『カシマレイコ』様のお話を……。
カシマレイコ?
なんか、名前だけ聞くと普通の女の人みたいね。
うん。
でも、名前だけで判断するのは危険だよ。
カシマさんもテケテケと同じで、その話を聞いた人のところへやって来るんだからね。
しかも、話のバリエーションが実に豊富で、姿も登場の仕方も色々あるって言われているんですなぁ、これが……。
姿が色々あるだと?
名前からして女のようだが……実際は変幻自在の怪物ということか?
そこまで凄いものじゃないよ。
ただ、あまりに色々な説があり過ぎて、もうどれが本当の話なんだか判らなくなってるって言った方が正しいのかな?
具体的には、どんなものがあるの?
そうですなぁ……。
例えば、有名なものでは『片足の無い女の人の霊』っていうのが一般的かな?
過去の悲惨な事故で片足を失って、それから自分の足を探して彷徨っているっていう話。
なんだか、前回のテケテケと共通する部分があるわね。
うん、そうだよ。
しかも、この続きも実に良く似ていて……カシマさんは、この話を聞いた人のところに、電話や夢を使って現れるんだ。
そこで『手をよこせ』とか『足をよこせ』って聞いて来るけど、絶対に頷いたら駄目。
『今、必要です』とか『今、使ってます』と言えば手足を取られずに済むんだけど……最後に『この話を誰から聞いた?』って聞いて来るんだよね。
その時は、『カシマさん』と答えれば完全に撃退できるって話だよ
ちょっと待て。
最後の下りだが……何か妙な感じがするのは気のせいか?
カシマさんとやらの話をしたのは、その話を聞かせた人間だろう?
幽霊自身が話したわけでもないのに、何故そういう話になる?
ふっふっふ……。
相変わらず、犬崎君は鋭いですなぁ。
まあ、順を追って話しますと、実は『カシマさん』っていうのは女の人の霊の名前じゃなくて、彼女を撃退するための神様の名前だって言う説があるんだよね。
撃退する神様の名前?
それが、どうして幽霊の方の名前になっちゃったのよ?
さぁ、それは私にもわかんないな。
たぶん、最初は名もないただの女の霊だったのが、それじゃ不便だからって撃退する神様の名前でひとくくりにするようになったんじゃない?
なんだか、随分安易な発想ね……。
そもそも、都市伝説を撃退できる神様っていう時点で怪しさ全開なんだけど……犬崎君は、何か心当たりとかある?
そうだな……。
カシマという名前で思い当たるのは、さしずめ茨城県の鹿島神宮くらいか?
鹿島神宮の神は、日本神話に登場するタケミカヅチ。
雷を操り、魔を滅する神と聞く。
都市伝説とはいえ、カシマレイコが悪意を持った怨霊の類であれば、タケミカヅチ神の力を借りて撃退するというのは理に適っている気もするがな。
なるほどね。
でも、カシマさんの話って、さっき亜衣が話してくれたものだけってわけじゃないのよね?
うん。
さっきのやつだって、たくさんあるカシマさんの話の中の、ほんの一例に過ぎないもん。
現れるのだって、いつも片足の女性とは限らなくて、身体の一部が欠損した女性とか、全身がケロイドの女性とか……もっと凄いのになると、旧日本軍の兵士なんてのもあるくらいだよ。
後は……そうですなぁ……。
カシマレイコに関係する事件を追って、その事件の起きた場所を地図の上で繋いでみたら、パーツが一部欠損した人間の身体みたいな絵になったなんて話もあるんだよね。
旧日本軍の兵士ということは、その時点で性別まで異なっているな。
地図の話は、怨霊云々よりも風水的な何かのような感じもする。
いったい、どれだけのバリエーションがあるんだ、そのカシマさんとやらは。
詳しいことは、私も知らないな。
でも、かなり多くの話があるってのだけは本当だよ。
過去の事故だって、テケテケみたいな轢断事故だけじゃなくて、戦時中米兵に両手両足を撃ち抜かれて死んだとか、米兵に強姦された挙句に殺されたとか……とにかく色々あるんだ。
撃退の呪文も、さっきのような応答タイプの物じゃなくて、もっとストレートに追い払うやつもあるくらいだし。
ストレートに追い払う?
そうだよ。
夢の中でカシマさんに出会ったら、『カは仮面のカ、シは死人のシ、マは悪魔のマ』なんて叫ぶと撃退できるっていうのが一般的かな?
そこまで来ると、なんだか随分とこじつけ臭くなってくるわね……。
それに、さっきから色々な話を聞いてきたけど、どれもどこかで聞いたことあるような気がするのは気のせいかしら?
いや、恐らく気のせいではないだろう。
以前、嶋本が言っていたな。
都市伝説として語り継がれる話は、刺激的かつインパクトの強い物の方が残り易いと。
その考えから今までの話を見直すと、色々と見えて来るものがある。
見えて来るもの?
そうだ。
カシマレイコに関する過去の事件だが、似たような事件がどこかで起きていた可能性はある。
それらの話に色々と既存の都市伝説をくっつけて、より怖い話として完成させたのがカシマさんの話なのだろうな。
なるほどね。
それじゃ、前回の話にあったテケテケも、もしかすると……。
ああ、カシマさんの亜種、もしくは同じ過程を経て作られた話と思って間違いないだろう。
テケテケ独自の特性もあるとはいえ、『事故死した女性』、『話を聞いた者のところに現れる』、『身体の一部が欠損している』等といった部分が極めて酷似している。
轢断事故バージョンのカシマさんの話を、どこかの誰かがより恐ろしい形に昇華させたと考えられなくもない。
ほうほう、なかなか興味深い説ですなぁ……。
すると、私が知っているカシマさんの話にも、更に大元の話があるってことなんでしょうかね?
それは俺も知らん。
だが、これだけは言えることがある。
な、なによ、急に深刻な顔になって……。
テケテケもカシマさんも、その話の根底には過去の悲惨な事故や事件の話が絡んでいる。
例え、それらの事故や事件の話が作り物であったとしても、どこかで同じような目に遭い、悲惨な死に方をした人間がいないとも限らない。
当事者達からすれば、苦しみ抜いて死んだ上に怪談話のネタにされる等、正に踏んだり蹴ったりな話だ。
そうね……。
死んでしまった人達だって、別に最初から苦しんで死にたいと思ったわけじゃないと思うし……。
そういうことだ。
悲惨な死に方……それこそ、人体の一部が欠損するような壮絶な死に方をした者は、とかく怪談話のネタにされやすい。
だが、面白半分で安易にそれらの話を語ることは、死者への冒涜に繋がるということも覚えておいた方がいいだろうな。
むぅ、確かに……。
私も面白半分で話してるつもりはなかったけど……自分でも知らない内に、事故で亡くなった人を傷つけていることがあるかもしれないってことだよね。
もし、本当にカシマさんが実在するとすれば、それは嶋本の話にあったような女の霊ではないだろうな。
カシマさんを恐れる子ども達の恐怖心、無残な死を遂げた挙句、ネタにされてしまった死者達の恨み……。
そういったものが重なり合わさって、巨大な負の想念の塊となった存在。
それこそが、テケテケやカシマさんの正体なのかもしれん。
巨大な負の想念、ですか……。
こりゃ、来年の初詣の時には、鹿島神社へ直々にお参りへ行った方がいいかもしれませんなぁ……。
そうね。
できれば自分の身に降りかかる災厄を祓うためじゃなくて、恐ろしい怪物にされてしまったカシマさんが、きちんと元の姿に浄化されることを願うために行きたいものよね。
さすがは巫女だな、九条。
ところで嶋本……。
鹿島神社へ行くのは構わんが、いつしかの正月の時のように、賽銭箱の近くに散らばった小銭をネコババするような真似だけは絶対にするなよ。
そんなことをすれば、それこそ本物の『鹿島様』が、お前のところに神罰を与えに現れることになるぞ。
えっ……アハハ……なんの話でございましょうか?
そ、それじゃ、今日はこの辺で!
サヨナラ~!!
あっ、逃げた!
ホント、都合が悪くなると、いっつもこれなんだから……!!
今に本当の『鹿島様』に、雷落とされても知らないわよ!!
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