ふふ~ん♪
今年のクリスマスは、サンタさんから何もらえるかな~♪
そういえば、もうクリスマスの時期だっけ。
私の場合、実家が神社だから、あんまり意識したことないのよね。
な、なんと勿体ない!
一年の中でも数少ない、子どもが親に我侭言える日をスルーするとは!
お主、本当に健全な日本国の女子高生でございますか!?
なんだか色々間違ってるような気がするけど……まあ、敢えて突っ込まないでおいていてあげるわ。
本当はキリスト教の行事なんでしょうけど、見事に日本の社会に溶け込んでるっていうのは事実だし。
おやおや、夢がありませんなぁ、照瑠どの。
そんなことばっかり言ってると、今年はサンタクロースからプレゼントが貰えませぬぞ。
それどころか……下手をすると、ブラックサンタが家にやって来るかもね。
ブラックサンタって……いったい、何者なのよ。
その、ご近所の小学生が、暇潰しに即興で考えた様なネーミングのサンタクロースは……。
なんだ、照瑠は知らないんだね。
ブラックサンタっていうのは、悪い子を専門に仕事をしているサンタクロースのことなんだよ。
普通のサンタが良い子のところに来るのと同じで、悪い子の家だけにやって来るんだってさ。
はぁ……悪い子の家、ねぇ……。
言っておくけど、私は別に人様から恨まれるようなことは何一つしてないわよ。
それに、悪い子っていうんだったら、煩悩の塊みたいな亜衣の方こそ当てはまるんじゃないの?
むぅ、誠実とピュアを絵に描いたような、この私を前にして失礼な!
それに、ブラックサンタがやって来るのは、なにも悪人や不良の家だけってわけじゃないんだからね!
サンタを信じていない人のところにも、お仕置きのために現れるんだから!
誠実だのピュアだの、自分で言ってれば世話ないわよ!
それに、お仕置のために現れるって……悪い子にはプレゼントくれないとか、悪い子のプレゼントを奪って行くとか、どうせそんな話でしょ?
ふっふっふ……残念ながら、そうじゃないんですなぁ。
ブラックサンタの仕事は色々あるけど、その一つが悪い子の更正なんだ。
だから、あまりに手に負えない子を見かけると……そのまま袋に詰めて、地獄に攫って行っちゃうなんて言われているよ。
夢がないのは、いったいどっちなのよ……。
それに、地獄に攫うって……そんなの、立派な誘拐以外の何物でもないじゃない!
まあ、そう言っちゃえば、確かにそうなんだけどね。
でも、ブラックサンタのお仕置きは、それだけじゃないよ。
地獄に落とすほど悪い子でない場合は、別の方法でお仕置きするみたいだからね。
別の方法?
うん、そうだよ。
サンタさんが良い子の靴下にプレゼントを入れてくれるように……ブラックサンタは悪い子の靴下に、腐った魚の内臓か、もしくは豚の内臓を詰め込んで行くんだってさ。
さ、最悪……。
腐った魚や豚の内臓って……そんなもの貰うくらいだったら、何も貰わない方がまだマシね……。
――――ガラガラガラ……。
どうした、お前達?
二人揃って、仲良くクリスマスの相談か?
あ、犬崎君!
犬崎君も、クリスマスなんて知ってたんだね。
ちょっと意外かも……。
さすがに、ここまで大きな行事となれば、俺も知らないわけではない。
もっとも、自分から家やらツリーやらを飾って祝うようなつもりは、俺には毛頭ないがな。
相変わらずね、犬崎君は。
ところで……さっき、亜衣からブラックサンタについての話を聞かされたんだけど、犬崎君は何か知ってることはない?
ブラックサンタだと?
知っているもなにも……サンタクロースとは、本来は黒い服を着ている人間のはずだが?
本来は黒い服?
もしかして……亜衣の話してたブラックサンタって、本当にいるってこと!?
嶋本がどんな話をしていたのかは知らんが、そう驚くことでもないと思うぞ。
そもそも、サンタクロースの原型はキリスト教の司祭、聖・ニコラスだ。
彼らの服は、基本的に黒だからな。
赤いサンタの方が後付けで、本来は黒い服を着ていたはずだぞ。
なんと!
サンタクロースの元祖は、ブラックサンタの方だったとは!?
それじゃ、悪い子を攫って地獄に連れて行くとか、靴下に腐った内臓を詰め込むなんてのも真実ってことだね♪
いや……別に、そんなつもりで言ったわけではないんだが……。
もっとも、嶋本の言っている話も完全に嘘とは言い難い。
恐らくは、聖・ニコラスの伝説が時代を越えて語り継がれる内に、奇妙な形に変貌したものだと思われるが……。
聖・ニコラスの伝説か……。
亜衣の与太話なんかより、私はそっちの方に興味があるわね。
うぐぐ……何も、そこまで言わなくても……。
でも、私もちょっと興味はあるかも。
歩く都市伝説百貨としては、ブラックサンタの真実を知らないわけにはいかないからね!
まあ、真相と言うほど大袈裟な話でもないと思うがな。
お前達にも解るよう簡単に話すと、聖・ニコラスは慈善活動の一つとして、貧しい人の家に金貨を投げ入れるという活動をしていたらしい。
その際、投げ入れた金貨がたまたま暖炉の側に飾ってあった靴下に入ったことから、靴下にプレゼントを入れる風習になったようだ。
なるほどね。
でも、それじゃ亜衣の言ってた、悪い子の靴下に魚やら豚やらの内臓を詰めるっていうのは何なのかしら?
やっぱり、この辺は単なる与太話なの?
いや、完全にそうとも言い切れんぞ。
サンタクロース……聖・ニコラスは、あくまでキリスト教の聖人だからな。
彼らにとっての悪い子とは、即ちキリスト教における罪人……より具体的に言うならば、七つの大罪を犯した者のことだろう。
な、七つの大罪!?
なんだか物凄い名前だけど……それ、どんな悪いことなのさ!?
キリスト教における七つの大罪とは、高慢、嫉妬、憤怒、怠慢、暴食、強欲、そして淫欲の七つの罪だ。
この中でも、特に強欲と淫欲……つまり、守銭奴や性に関する欲が強い者は、特に罪が重いとされていたようだからな。
先の話を信じるなら、どうやら聖・ニコラスの時代にも、強欲にとり憑かれた者は多かったらしい。
ニコラスの投げた金貨が靴下に入ったことで、靴下を下げておけば金貨が貰えると勘違いして、教会に寄付もせずに金だけ貰おうとした連中も現れたと聞くぞ。
そんな連中を戒める意味を込めて、靴下に生ゴミを詰めるという話が出来上がったのだろうな。
確かに、寄付もしないで金貨だけ欲しがるなんて、いくらなんでも間違ってるわね。
困った時はお互い様なのに……自分だけ良ければいいっていう人は、いつの時代にもいるものなのね。
まあ、そういった人間の業の深さは、どのような時代でも変わらんということだ。
それに、聖・ニコラスには靴下と金貨の話だけでなく、もう一つ別の話も残されているぞ。
別の話?
それって、もしかしてブラックサンタが悪い子を地獄に連れて行くっていう方の……。
実際は、少々話の内容が異なるが……まあ、原型になったのは間違いないだろう。
聖・ニコラスの起こした奇跡の一つとしては、猟奇殺人鬼に殺された子ども達の復活が挙げられる。
ある時、街で頻繁に子どもが行方不明になる事件が発生し、その事件を追っていたところ、犯人が肉屋の店主だったことが発覚した。
どうやら、殺した子どもの肉を塩漬けにして店で販売していたらしいが……殺された子どもを哀れに思ったニコラスが、人肉を保存していた壺に口付けをすると、奇跡が起きて子どもが蘇ったと言われている。
この話と七つの大罪の話が組み合わさって、『豚の内臓云々』の話が出来たとも考えられるな。
なんだか凄い話になって来たわね。
さすがは聖人ってところだけど……要するに、亜衣の言ってたブラックサンタなんて、やっぱり単なる与太話ってことよね?
まあ、実際に聖・ニコラスの伝説も、どこまで真実かは不明らしいからな。
今では完全に原型となった話を知る者も少ないだろうし、そもそも気にする者もいないだろう。
北欧の国にはサンタ村などもあるらしいが、そこのサンタクロース達も、あくまで世間一般の人間が知るサンタ像のサンタでしかない。
なぁんだ、それじゃ別に、ブラックサンタがやって来るなんてことはないんだね!
よ~し、これなら安心して、『サンタ捕獲計画』を実行できますぞ!
サンタ捕獲計画!?
ちょっと、亜衣!
あなた……まさかとは思うけど、ま~た下らない理由から、よからぬことを考えてるんじゃないでしょうね!?
べ、別に、そんな大したことじゃないよ!
ただ、サンタクロースを捕まえて、あの袋をちょっと拝借しようってだけだからね。
あの袋……某アニメに登場する猫型ロボットのポケットみたいに、望めば何でも思い通りのプレゼントが出て来るらしいからさ♪
それのどこが大したことじゃないのよ!
そんなの、ただのプレゼント泥棒じゃないの!
強欲だけでなく、高慢や怠慢のオマケ付きとはな。
少なくとも、聖・ニコラスから施しを受けるような資格は、お前にはないとだけ言っておくぞ。
亜衣の場合、煩悩が思考の半分以上を占めてるからね……。
意外とブラックサンタの話って、あんな子を戒めるために、どこかの大人が敢えて創作した話なのかもしれないわね……。
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