う~ん……見つからないわねぇ。
あれ、どこに行ったのかしら?
おや、照瑠殿。
何かお探しですかな?
えっ!?
うん、まあ、ちょっとね。
昨日買ったはずの本が、どこにも見当たらなくて……。
ほうほう、なるほど……。
それはもしかすると、小さいおじさんの仕業かもしれませんなぁ……。
なによ、その小さいおじさんって……。
それと私の本と、いったい何の関係があるの?
関係っていうよりは、可能性の話だけどね。
小さいおじさんっていうのは、その名の通り物凄く小さなおじさんで……身長は、だいたい8cmから20cmくらいかな?
人の見えないところで悪戯をするとも、幸運を呼ぶとも言われている存在だよ。
なにその、絵に描いたような小人は……。
しかも、なんでよりにもよっておじさんなわけ?
普通、小人とか妖精さんっていうのは、もっと可愛らしい姿をしているものだと思うんだけど……。
そんなの、私に訊かれても知らないよ。
でも、このおじさんの目撃談がたくさんあるのは確かだからね。
ミュージシャンとかグラビアアイドルとか、たくさんの芸能人から見たって報告があるみたいだし。
芸能人の目撃談、ねぇ……。
単に、自分の名を売って有名になるために、面白い話をしたってだけじゃないかしら?
むぅ、失礼な!
まあ、確かに中には与太話の類もあったかもしれないけど……それでも、小さいおじさんの住処って言われてる神社だって、関東地方にはあるんだからね!
えっと……先に言っておくけど、頼むからうちの神社にだけは、そんな得体の知れない者を呼び込まないでね。
興味本位で参拝に来られると、それだけで大変なことになりそうだから……。
な、なぜそれを!?
もしや照瑠殿、密かに読心術の修行をしておりましたな!
きっとそうだ!
そうに違いない!
なに、馬鹿なこと言ってるのよ。
だいたい、あなたの考えていることなんて……。
――――ガラガラガラ……。
どうした、二人とも?
今日も今日で、なにやら取り込み中か?
あ、犬崎君!
実は、照瑠の本が、小さいおじさんに隠されちゃったんじゃないかって話になってね。
今、ちょっと探してたところなんだ。
ちょっと!
なに、勝手に話を作ってるのよ!
だいたい、さっきから小さなおじさんの話はしてたけど、本は全然探してくれてないでしょ!?
わはははは!
そうでした~!!
……で、ところで犬崎君。
犬崎君は、小さいおじさんについて、何か知ってることはない?
いや、俺も初耳だな。
だが、小人の話というならば、いくつか思い当たるものはあるぞ。
ほうほう、それはどんなものでしょうか?
俺が知っている中で有名なのは、まずは北海道のコロポックルだな。
アイヌ語で、『蕗の葉の下の人』の言葉で、要するに小人だ。
人前には滅多に姿を見せず、古代アイヌ人との交易の際にも、夜中に差し入れをするような形でしか関わらなかったらしい。
おお、なんか物凄く小さいおじさんに似てますぞ!
それじゃ、そのコロポックルが、何か悪戯をしたっていう話はないんですかな?
残念ながら、そちらの話はあまり聞かないな。
そう言う意味では、日本古来の妖怪や精霊ではなく、外国の妖精の方が近い存在になるかもしれん。
妖精、ねぇ……。
女の子だったらまだしも、おじさんの妖精なんて、あまり考えたくはないんだけど……。
いや、そうとも言い切れん。
恐らく、九条の考えているのは、一般的に言われる花の妖精の類なのだろうな。
だが、実際にはそれだけでなく、実に多種多様な妖精や精霊の伝説があることも事実だぞ。
なんと!
外国には、本当におじさんの妖精がいるんですか!
これはいよいよ、小さいおじさんの信憑性が増して来ましたぞ!!
そんなに驚くほどのことでもないとは思うが……。
例えば、お前達も童話の『小人と靴屋』の話は知っているだろう?
あの話に出て来た『レプラコーン』という妖精は、嶋本の言っているような小さいおじさんの妖精だ。
悪戯をすることもあるが、基本的には仕事が好きで、働き者の人間には力を貸してくれることもあるらしいな。
ただ、謝礼に菓子や衣服などを置いておくと、自分の正体を見られたことに感付いて、去ってしまうらしいんだが……。
なるほどね……。
亜衣の話に近いのは、そのレプラコーンじゃないかしら?
でも、外国の妖精が正体なんだったら、どうして今になって、日本で語られるようになったのかしら?
それは、俺にも判らんな。
そもそも、嶋本の言う小さいおじさんの正体が、レプラコーンと決まったわけではない。
小人の伝説ということであれば、地域差こそあれ、そこかしこに転がっているだろうからな。
まあ、確かにね。
妖精の他にも、未確認生物説とか宇宙人説とか、色々あるし……。
こうなったら、ここはやっぱり、実際に捕まえて正体探る必要がありますなぁ。
そして……見事に捕獲できた暁には、私も一躍有名人だね!
どこぞの研究所に売れば、意外と高く売れたりして……。
なにかと思えば、またそんな下らないこと考えてたってわけね。
ところで……私の本、いったいどこに行っちゃったのかしら?
まだ、全部中身も読んでなかったのに……。
本だと?
そういえば、さっき嶋本が、玄関の近くで何かを叩くのに使っていたのを見たな。
確か……害虫を叩き殺してやるとか、そんなことを言っていたような気が……。
Σギクッ!!!
え、え~と、なんのことでございましょうか?
私、本なんて知らないよ?
黒い物潰すのになんて、全然使ってないよ、うん!!
亜衣……まさかあなた、私の本を……。
っていうか、黒い物ってなによ、黒い物って!!
大方、春先になって暖かくなってきたところで、冬眠中だったゴキブリでも顔を出したんだろう。
殺虫剤が無い場合は、その辺の物を鈍器にして潰すのも仕方ないことだしな。
い、いやですなぁ、犬崎君。
そんなはず、ないじゃありませんか!
あれは……そう、小さいおじさんを見つけたから、捕まえようと思って叩いたら、勢い余って潰しちゃったんだよ!
そういうことなんだよ、そうしよう!
ちょっ……冗談じゃないわよ!
新品の本で、しかも人の物でゴキブリ潰すとか、信じられないんだけど!!
亜衣……あなた、どうなるか、解っているんでしょうね……。
ノ、ノォォォッ!!
誤解だよ、照瑠~!!
それもこれも、全部小さいおじさんのせいなんだって!
そうに違いないんだってば~!!
やれやれ……。
いくら悪戯好きな存在とはいえ、こうなんでも責任を押し付けられたら、小さいおじさんとやらも大変だな。
案外、濡れ衣を晴らすために、憤慨して姿を現すかもしれんが……。
本ページの画像は、一部、ギャラリー田園調布様のキャラメイクファクトリーを使用して作成させていただきました。
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