梅雨時って嫌ね……。
こう、雨が続いてると、なんだかそれだけで憂鬱な気分になっちゃうわ。
まあ、そう言いなさるな、照瑠どの。
確かに雨ばっかりだと憂鬱になるけど……空から降ってくるのは、何も雨だけとは限らないからね。
いったい、何が言いたいわけ?
空から降ってくるものなんて、雨以外に何があるのよ?
おや、照瑠どのはご存じないのですか?
ファフロツキーズ現象って言ってね、世界では雨の代わりに奇妙な物が空から降ってきた事例がたくさんあるんだよ!
奇妙な物が降って来るって……。
さすがに、いくらなんでもそれはないんじゃないかしら?
どうせ亜衣の与太話だって……犬崎君も、そう思うでしょ?
なるほど、与太話か……。
だが、時に事実は小説より奇なりとも言うからな。
嶋本の言っている通り、奇妙な物が降ってくるという現象は、実は様々な場所で確認されているぞ。
えぇっ!?
まさかとは思うけど……でも、犬崎君に言われると、なんだか急に信憑性が増して来たような……。
むぅ、なんという失礼な!
それじゃあ、まるで私の話が、いつも嘘八百の適当な話ってことになるじゃんか!
だが、実際にしょうもない話、いいかげんな与太話が多いのも事実だろう?
そう思われたくなかったら、少しは話に信憑性を持たせる努力をしてみたらどうだ?
け、犬崎君まで、そんなこと言うなんて……。
でも、私はめげませんぞ!
こんなこともあろうかと、今回は歴史上に残された、数々の事例をまとめて紹介できるようにして来たんだからね!
歴史上って……そんな妙な物が降ってきたなんて話、学校の教科書には載ってなかったわよ?
そんなの当たり前じゃん。
でも、実際に色々と妙な物が降ってきたことがあるのは確かだよ。
たとえば、1833年にインドのフッテプールっていう街で起きた事例だと、日干しになった魚が3000匹以上降り注いだって話があるんだ。
空から魚が!?
いったい、何が原因でそんな物が降ってきたのよ……。
まさか、海から飛び出た魚達が、空を泳いで振って来たとか言わないでしょうね?
さあ、その辺は私にも、詳しいことは判らないかな。
ただ、こういった例は他にもたくさんあって……1989年にはオーストラリアで小雨と一緒にイワシが降った例もあるし、1901年ではアメリカのミネソタ州で、なんと空から蛙が降ったんだ。
それも、4ブロックエリアを埋め尽くす勢いで、場合によっては蛙だけで8cmの厚さに降り積もったんだってさ。
蛙が8cmって……なんだか、あんまり想像したくない光景ね。
苦手な人からしたら、まさに地獄って言ったところかしら?
その他にも、一番新しいところで行くと……2009年に日本各地で、空からオタマジャクシが降って来たって話があったよね。
あれも随分と騒ぎになったけど、結局原因は不明のままだったんだ。
蛙の次はオタマジャクシか……。
そういえば、さっきから降ってくる物は、水辺の生き物ばっかりね。
もしかして、雨が水だから、それに関係があるのかしら?
おっ、なかなか良い勘しておりますな、照瑠どの。
確かに、これらの現象の原因として考えられているものの中には、海辺で発生した竜巻が魚なんかを巻き上げたって話が出ることもあるけどね。
なるほど、面白い考え方だな。
しかし、原因が竜巻だったとして、その他にも巻き上げられた可能性のある物が降って来ないのは不自然ではないか?
魚にしろ蛙にしろ……竜巻説では、同種のものしか降って来ない理由に説明がつかないと思うが?
ふっふっふ……そういう人もいるかと思って、他にもちゃ~んと理由を用意してありますぞ。
竜巻が駄目なら、次に考えられるのは鳥さんの仕業だね。
鳥が餌として運んでいた魚を落としたとか……後は、純粋に誰かの悪戯なんて話も出ているんだよね。
それでも、やっぱりおかしいわよ。
いくら鳥が落としたにしても、アメリカの蛙の話を説明できるだけの量を落下させるなんて不自然だわ。
悪戯にしたって、それを仕掛けた人を誰かが目撃したわけ?
誰もいないんだったら、やっぱり決め手に欠けるってことにならないかしら?
う~む……。
そう言われちゃうと、さすがに私もお手上げなんだよね。
今も世界中で色々な学者さんが理由付けをしようとしてるみたいだけど、未だに明確な答えは出せてないし……。
科学の進歩した現代においても、解明できない謎というわけか……。
だが、それでも現象だけは、古くから度々目撃されているわけだからな。
最も古いものになると……日本では西暦884年に、出羽の国で石の矢尻が二十個近く降ったという記録がある。
西暦884年っていったら、平安時代じゃない!?
そんな昔から、変な物が降ってくる現象って起きてたのね。
当時は既に石器を用いた暮らしなどしていないはずだから、そもそも石器が降ること事態、重ねて奇妙な話なのだがな。
こういった話は江戸時代にも記録されていて、こちらは『怪雨』という名称で、『和漢三才図解』という書物に記録が残っているな。
むぅぅ……。
まさか江戸時代はおろか、平安時代にまでファロフツキーズ現象が発生していたとは……。
さすがの私も、そこまでは知りませんでしたぞ。
まあ、確かに海外の事例に比べ、日本での事例は大きく取り上げられることは少ないからな。
もっとも、日本の事例に限って言えば、少なくとも昔の人間は、一つの答えを出していたようではあるんだが……。
答えって……まさか、昔の日本人が、蛙や魚が降ってくる原因を突き止めてたってこと!?
さすがに、そこまではないだろう。
ただ、彼らは一連の奇妙な現象を、天狗や狐狸の悪戯と考えたんだ。
古典が好きな九条なら、『遠野物語』は読んだことがあるか?
そこに出てくる話の一つに、大狐が空から石を降らせる話がある。
そういえば、そんな話も合ったような気が……。
あっ、思い出した!
他にも昔話に出てくる天狗が、悪戯で人間の頭に石や木の実をぶつけるって話を聞いたことがあるわ。
九条の言っているのは、『天狗礫』として有名な話だな。
多くは江戸時代に確認されているが、中には明治になってからも発生したことがあるらしい。
しかも、空から石が降ってくるだけでなく、場合によっては室内に石が降るという事例も記録されているぞ。
室内に石って……それ、もはや雨なんてレベルの話じゃありませんぞ!
普通に物体を瞬間移動させてるとしか思えませんなぁ……。
天狗って、なかなか凄い力を持っていたんだね。
いや、そもそも天狗が本当に存在している前提で話を進められても……。
確かに『天狗礫』との共通点は興味深いけど、あくまで昔話の中の話でしょ?
それに、瞬間移動って……いくら天狗でも、そこまでの力は持ってないんじゃないかしら?
伝承によれば、天狗は隠れ蓑を持っているから姿を消せるので、そういった悪戯が可能だとも言われているがな。
ただ、中には理由を魑魅魍魎に求めずに、より崇高な存在……神に求めた者達もいたようだ。
『日本三代実録』という書物には、秋田城に鍬が降った話が残されているが、当時の人間はこれを神の落し物と考えたとされている。
ほうほう、隠れ蓑とな……。
と、いうことは……もしかして、石振りに遭遇したら、その近くには天狗がいる。
その天狗を捕まえたら……私も姿を消して、色々好きなことができちゃうとか!?
亜衣……何を考えてるのか知らないけど、友人として忠告しておくわ。
邪な理由で天狗捕獲作戦なんて考える前に、もっと現実を見た方がいいってね……。
な、なぜバレたし!?
もしや、お主いつの間にか、読心術を会得していたのか!?
そうだ、そうであろー、そうに違いないであろー!!
何、馬鹿なこと言ってるのよ。
あなたの考えそうなことなんて、ちょっと注意しなくても、直ぐに想像できるわよ。
ぐぬぬぬ……なんたる言い草。
でも、よくよく考えてみたら、姿を消してる天狗を見つける方法も解らないしね。
ここはやっぱり、気長に自分の身の回りで、ファロフツキーズ現象が起きるのを待ちますか。
気長に待つだと?
自分の家の周りに石やら蛙やらが降ることで、お前に何か得があるのか?
えっ、だってそうでしょ?
確かに、魚や蛙じゃ意味はないかもしれないけど、運よくお金が降ってきてくれたら超ラッキーじゃん!
できればお札がいいけど、小銭さんでも大歓迎だよ!!
はぁ……。
何を考えているのかと思ったら、やっぱりそんなことだったわけね。
いい加減にしないと、お金どころか、自分の頭の上に特大の石が降って来ないとも限らないわよ……。
他力本願、ここに極まれりか……。
こいつの場合、一度本当に頭の上に、雷でも落ちないと性格が変わらんのかもしれんな……。
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