はてさて。
前回はメリーさんの電話についての話だったけど、今回はその流れで、降霊術について話しちゃうよ!
なに、さらっと流して言ってるのよ。
あなたが壊した社務所の床……ちゃんと、修理代は払ってもらうんだからね!
うぐっ……。
なにやら、いきなり思い出したくないことを……。
まあ、九条もその辺にしておくんだな。
ところで……前回、お前はメリーさんの電話で現れる幽霊が、実はアメリカの降霊術で呼び出される幽霊ではないかと言っていたな。
その話、詳しく聞かせてもらおうか?
ちょっと!
犬崎君も、他人事だと思って亜衣を甘やかさないでよね!
でも……まあ、少しだけ気になるのは確かだけど……。
ふっふっふ……。
やっぱり、ここはそう来なくっちゃね!
よろしい、教えて進ぜよう!!
まったく、調子がいいんだから……。
で、そのアメリカ式降霊術ってのは、いったいどんな話なのよ?
アメリカで有名なのは、『ブラッディメアリー』っていう話だよ。
深夜、鏡の前で彼女の名前を三回唱えると……鏡の中から血まみれのメアリーさんが現れて、中に引きずり込まれちゃうんだって。
もしくは、そのまま殺されちゃうってパターンもあるみたいだけど……どっちにしろ、犠牲者は助からないみたいだね。
犠牲者は軒並み死亡って……それじゃあ、誰がその話を他人に伝えたのよ……。
まあ、その辺は訊かないのが、都市伝説のお約束ってことで……。
とにかく、このブラッディメアリーに登場するメアリーさんが、日本に来てからメリーさんになって、他の話に吸収された可能性もあるってこと。
私が言いたかったのは、それだけだよ。
なるほどな。
もしかすると、メリーさんの電話とやらも、本来は何らかの過程を経て霊を呼び出す方法で……その方法が忘れられた今、祟りのようなものだけが残ってしまい、暴走しているとも考えられるな。
そうだね。
それに、メリーさんの電話と良く似た話で、実際にもっと降霊術っぽい話だってあるわけだし……。
良く似た話って……。
いったい、どれだけのパターンがあるのよ、メリーさんの電話っていうのは!?
そんなの、私にも正確なところはわかんないよ。
都市伝説ってのは、時代によって少しずつ変化してゆくものだからね。
多くの人の間に伝わる内に、色々と新しい要素が加わって別の話になる。
これから私が話すのも、そんな風にして生まれた派生パターンって言った方が正しいのかな?
派生だと?
では、メリーさんの電話の要素を含みつつも、実際はまったく違う話という可能性もあるわけか……。
そういうこと。
例えば……私が知ってる話の中では、『さとる君』なんていうのが比較的有名かな?
これも、電話に関係する霊なんだけど……メリーさんと違って、さとる君は自分から呼び出す存在なんだ。
自分から呼び出す?
うん。
呼び出し方は簡単で、公衆電話から自分の家、もしくは携帯電話に電話をかけるんだよ。
まあ、家だと家族がいた場合に誰かが出ちゃう可能性もあるから、携帯電話の方が確実かな?
携帯の方が確実……ということは、家族の誰かが電話に出たら失敗ということなのか?
その通り。
本来、その電話に出られない状況なのに、何故か電話が繋がってしまう。
そうしたら、そこですかさず、『さとる君、さとる君、起こしください』って唱えるんだよ。
他にも、さとる君専用ダイアルが存在する、なんて話もあるけど……とにかく、ここまでしないと、さとる君の呼び出しには成功したことにならないんだ。
まあ、幽霊なんて、私はわざわざ呼び出したいとは思わないんだけど……。
で、そのさとる君、いったい何をしてくるわけ?
別に、何も。
ただ、さとる君に電話が繋がっている場合、その日の夜に、今度はさとる君から電話がかかってくるんだよね。
それから先は、メリーさんの電話と同じパターンで話が進むんだ。
自分の居場所を告げながら、徐々にこちらに迫って来るというアレだな。
ならば、最後はそのさとる君とやらも、己を呼び出した者を殺してしまうのか?
いや、それが違うんですなぁ。
いきなり殺人なんてするほど、さとる君は狂気に満ちた霊じゃないよ。
だから、最後に自分の後ろに立たれた時点で何か質問をすると、さとる君は何でもそれに答えてくれるんだ。
質問に答えてくれる?
本当にそれだけなの?
うん。
でも……油断したら駄目だよ、照瑠。
確かに、さとる君は自分から何かをしてくるような霊じゃない。
だけど、約束を破った人に対しては、割と容赦ないところがあるからね。
約束だと?
さとる君は、どうも自分の顔を見られるのが嫌いみたいなんだよね。
だから、もしも自分の後ろにさとる君が立っている時に、一度でも振り向いてしまったら……そのまま、さとる君の手によって、魔階へ連れて行かれてしまうんだってさ。
ま、魔界って……。
いくらなんでも、ちょっと荒唐無稽過ぎやしない?
まあね。
それでも、さとる君が単なる凶暴な霊じゃないってことだけは、わかったんじゃないかな?
だが、約束を破った瞬間に本性を現すとは、やはり侮れん存在には違いないな。
それに、命を奪うのではなく、魔界へ連れ去るという部分も気になるところだ。
幽霊というよりも……その、さとる君という少年は、悪魔のような存在に近いのかもしれん。
なるほど、悪魔ですか。
まあ、確かにそういう側面を持った存在なのかもしれないね。
人間の好奇心に付け込んで、それに負けた人を連れ去っちゃうところなんかが、いかにも悪魔っぽいし。
悪魔っぽいって……実際、そこのところ、どうなのよ?
わかんないよ、そんなの。
この手の話にありがちなことだけど、さとる君の正体も、未だにわからずじまいで終わってるからね。
都市伝説の中でも、今では割と古い部類に入るし……。
もう、正体を探ることも難しいと思うよ。
結局、メリーさんと同じで正体不明、か……。
私だったら、そんな得体の知れない者を呼び出してまで、何かを聞こうとは思わないわね。
ほうほう、そうですか?
では、正体がわかっている相手だったら、呼び出してもOKってことですかな?
正体がわかっているだと……?
お前の話にしては、珍しいパターンだな。
うん。
さとる君は正体不明の存在だったけど、もう一つ似たような話があるんだよね。
その名も、『怪人アンサー』ってやつが……。
これも電話、それも携帯電話を使って、十人の人間で呼び出すんだ。
なんだか、随分と話が大きくなってきたわね。
複数の人間で呼び出すってことは、何か妙な儀式でもやるわけ?
そうだね。
儀式と言えば、儀式かも……。
アンサーを呼び出すためには、全員で輪になって……一斉に、隣の人の携帯電話に電話をかけないと駄目だから。
そんなことをすれば、通話できんぞ。
全て、現在通話中という扱いになると思うが……。
ふっふっふ……。
確かに、そう思うのが普通なんだけど……その電話の中で、一つだけアンサーに繋がる電話があるんだよね。
そして、電話の向こう側にいるアンサーは、参加者それぞれのどんな質問にも
答えてくれる。
ここまでは、さとる君と似ているかな?
なんだか物凄く胡散臭いけど、似ていると言われれば似ているわね。
でも……本当に、それで終わりなの?
亜衣……あなた、まだ何か隠してるんじゃない?
おっ、鋭いですな!
実は、このアンサーなんだけど……最後に、アンサーの方から一つだけ質問を
してくるんだってさ。
そして、その質問に答えられないと、携帯電話の通話口から巨大な手が現れて、肉体の一部を引きちぎられて奪われちゃう。
なんでも、アンサーは奇形として生まれた人間が妖怪化したもので、自分の身体を完全にするために、人間の身体のパーツを集めているんだってさ。
ちょっ……冗談じゃないわよ!
身体の一部を引きちぎるって……考えようによっては、さとる君の話よりも、よっぽどグロテスクじゃない!!
だから、最初に言ったじゃん。
正体がわかっていれば、呼び出してもOKなのかってね。
降霊術……。
霊能力者的な立場から言わせてもらうなら、やはり遊びでやる物ではないな。
古くは『こっくりさん』に始まる危険な遊びだが……正体の有無に関係なく、
関わった人間は悲劇的な最後を遂げることも多い。
素人が霊を安易に呼び出そうとすれば、それ相応の代償は負うことになる。
そういうことだね。
でも、人間は好奇心旺盛な生き物だし、噂も大好きだからね。
こっくりさんは既に廃れた遊びかもしれないけど、手を変え品を変え、降霊術は都市伝説として語り継がれて行くんだと思うよ。
それが途中で色々な話を吸収して、さとる君や怪人アンサーの話が作られたのかもしれないね。
そうだな。
アンサーの話などは、宇宙人と交信するためのチャネリングの要素を含んでいるとも言える話だ。
携帯電話を使うことといい、いかにも現代的な話だったが……所詮は作り話と、笑って済ませられるものでもないな。
どうして?
本物の儀式じゃなかったら、別に何も起きないんじゃないの?
ああ、普通はな。
だが、俗に『こっくりさん効果』と呼ばれる一種の自己暗示によって、儀式に関わった人間が、霊に憑かれていると思い込んでしまうことがある。
そうなると、些細な不幸を全て霊のせいにして、最後はノイローゼになって狂い死にすることもあるというから、笑い話では済まされん。
犬崎君の言う通りだよ。
まあ、それでも人間は、タブーを破るのも大好きだからね。
そういった人間心理が働いて生まれた、最強最悪の降霊術、私も知らないわけじゃないし……。
最強最悪の降霊術って……今までの話以上に危険な話が、まだあるの!?
うん。
でも、それを語るのは、また今度!
今日はここまで、お疲れ様~♪
なんだか、随分と唐突な幕切れだな。
そして、何か忘れているような気がするが……気のせいか?
あっ、社務所の床!!
こら、亜衣!
ちょっと待ちなさい!!
相変わらず、逃げ足の速いやつだな。
だが、次回も床に穴が開いたままでは、さすがにマズイか……。
とりあえず、ベニヤ板でも置いて塞いでおこう。
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